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2009

0718
霙姉さんと長男のSSです
今回は虹裏設定抜きエロ要素抜きで書いてみました
さらには駄姉設定&餡子狂い封印です

10割方おっぱいの話だけどね!




 何もそこまで驚かなくてもいいではないか。

「うわああああっ! 霙姉ごめんっっっっ!!!」

 何もそこまで大声を上げなくてもいいではないか。
 私だって女なんだ、少しは傷つくぞ。

 ……などと言えるはずもなく。無言で胸を隠し、弟に背を向ける。
「早く扉を閉めろ」
 弟は慌てて閉めるともう一度、
「ごめん!」
 と言ってバスルームから転がるようにして出ていった。
 まったく、高一にもなってこれとは困ったものだ。
 このままではいずれ大変な事になるぞ? 海晴姉や春風だったら説教ものだろうし、氷柱なら吊るし上げにしようとするだろう――
 ヒカルや蛍にしたって表立って抗議はしないだろうが、根には持つだろう。
 怒りもしなければ恨みもしないのはきっと私だけだ。
 だから――良かったな、私で。



 海晴姉は姉妹の中で一番年上ということもあり、時に母親的な役割を演じる事もあった。それが故に一番女というものに近かった。
 春風はあの容姿に性格だ。誰よりも女の子という言葉が似合った。
 それに比べ私はどうだ? 父親の居ない我が家では父親的な、そして兄的な役割を演じてきた。
 学校でも男子から『女の子』として扱われる事は稀だった。
 髪が短かったからか、それとも女子に囲まれ男子的な役割を演じることを求められていたからなのか――今となっては定かではない。
 ただ一つ言えるのは私は家の中でも外でもどちらかといえば男性的なポジションに居た、ということだ。
 その傾向がさらに顕著になったのは小学校高学年から中学に上がる頃にかけて。

 第二次性徴というやつだ。男は男らしく、女は女らしくなっていく。
 海晴姉や春風達は女性的な体つきになっていった。分かりやすく言えば胸が大きくなった。
 周りもそれまで以上に女の子として扱うようになった。そしてモテた。
 だが私はどうだ。氷柱ほどではないがほとんど体形が変わる事は無かった。
 下着や水着になれば判るものの、服を着てしまえばほとんど判らない。
 一言で言えば貧乳、だ。
 胸の大きい子達と比較されるようになる。
 まるでそれがいけないことであるかのように、
 まるでそれが女であることを否定するかのように。
 ……。
 いつだったか、クラスの男子に事故とはいえ胸を触られた事があった。
 悪戯ならともかく事故ならば仕方ない。腹を立てたところでしょうがない。
 すぐに忘れてしまうつもりだった。この一言を聞くまでは。
「お前、女っぽくないと思ってたけど、ここもそうなんだな」
 それが悪意のないものだったとしても、その一言は棘のように刺さり、鈍い痛みとなった。
 元から無かった異性への興味というものは二次性徴を経てもなお芽生えることはなく、今へと至る。


 女らしくないということで海晴姉や春風のように異性からモテることはなかったが、逆に同性からはモテた。
 男臭さが無いというのはどうやら彼女たちにとってハードルが低かったらしい。
 抱きつかれもしたしキスをねだられたこともあった。
 男に近い扱いをされていたといっても私は女だからそこまで踏み込まなかった。
 するとらしくない、と言われる。おかしいとは思わないか、私は男ではないのだから王子様になんてなれるはずがないのだから。
 そうして理想と違うと気づくと彼女たちは離れていった。
 まったく、勝手なものだ。


 こうして男からも女から距離を置き、そして置かれ、色恋というものから遠ざかっていった。
 そんな私を海晴姉や春風は心配してくれた。
「それじゃあ枯れてしまったオバサンみたいじゃない。駄目よ、若いんだから青春しなきゃ」
「霙ちゃんの王子様はまだ現れませんか――?」
 二人とも特定の誰かなんかいないじゃないかと言うと、
「周りのオトコノコはまだまだ子供で、レンアイってかんじじゃないのよ」
「春風の王子様はきっとまだ春風に気づいてくれていないんです。春風は気づいて貰えるまで待っているんです」
 となる。
 いない、という点では二人とも一緒じゃないか。
「違うわ(ます)!」
 なにも声まで揃えなくても。
「んもう、霙ちゃんは居ないんじゃなくてそもそも興味が無いんでしょう? 今から将来が心配だわ……」
 将来……そんなものがあるのだろうか。
 何年かすれば大人になる。だが私は私のまま変わらずにいるだろう。
 色恋に限って言えば今も将来も同じだ。私は変わりはしない。
 これまでの私が変わらなかったように。
「霙ちゃんは気づいていないだけです。霙ちゃんはとってもかわいい女の子です。それは春風が保証します」
「春風のほうが何倍も――いや、何百何千倍もかわいいさ――」
 私などとは比較にならないほどに。
「同じくらいの歳の男の子からすればそうかもしれないわ――でもね、霙ちゃん。いつかあなたの魅力に気づいてくれる人が現れるわ」
 私に――魅力?
「……。そんな奴いるものか。男はみんな私なんかより海晴姉や春風を選ぶさ」
「どうかしらね」
 そう言うと海晴姉は笑った。

 一体私のどこに惹かれるところがあるというのだ。
 こんなどちらつかずの私に興味を示すような奴が現れるものか。
 いるとしたら、という仮定すら浮かばない。

 未来永劫訪れることのない“いつか”だ。




 バスルームを出てリビングのソファに腰を下ろす。
 周りには誰もいない。何時間か前まではここも騒がしかったのだが、今は私一人だけ。
 静寂――この部屋にもっとも似合わない言葉だ。
 そのせいか置き去りにしてきた過去の断片を思い出してしまった。
 あれから変わった事といえば弟がこの家にやってきたことか。
 触れられる距離にいる唯一のオトコ。そして私の裸を見た唯一のオトコ。
 別に意識などはしない。見られたところで困るようこともない。
 相も変わらず私の体は平坦なのだから。
 だからきっとアイツも意識したりなんかしないさ。
 驚いたのだって、覗いてしまったからではなく、怖い相手に見つかって怒られると思ったからに過ぎん。
 それだけさ。


 ガチャ、という音がしたのでふり返ると弟がドアから半身を覗かせ、何かを探していた。
「あ、霙姉ここに居たんだ」
「どうした?」
「いや、さっきのことで謝ろうと思って……」
 ふむ。
「ならそんなところに居ないでこっちに来い」
 ソファをポンポン、と叩いて隣に座るよう促す。
 弟はそれにおとなしく従う。
「その顔は随分と気にしているようだな」
 弟は肯く。
「なんかボーッとしてて気づかなかった。ごめん」
「あることだ。よく、ではないがな」
「ホントごめん……」

 別に構わん……といいかけてはたと気づいた。どうもおかしい。
 怖がってない? ヒカル辺りならこんな時ビクビクしているものなのだが……どういうことだ?

「私がこれくらいの事で怒るとでも思ったか? 何かが壊れたわけでも傷ついたわけでもないだろう」
「でも」
「私がいいと言ってるんだ。もうこれ以上気にしなくていい」
「うん……」
 うむ、素直が一番。
「第一、こんな体、見られて恥ずかしいと思うわけがないだろう? ほら」
 弟の手を取り、私の胸へと導く。
 私は海晴姉や春風ではないんだ。
「な? 小さいだ……」
 だが弟の手には触れる一瞬、抵抗するかのように力がこもった。
「どうした?」
「いや、だってここ胸じゃん」
「海晴姉や春風じゃないんだ、別に気にすることもあるまい」
「うん……いや、そうじゃなくてなにしてんの」
「なにって」
 胸――に手を当てただけだろう? それくらい、
「駄目でしょ、霙姉。こんなことされたらその気になっちゃうじゃん」
「なにを言って……?」
 こんなもの触ったところでなにがどうとなるのか。どうにもなるわけがないだろう。
「胸だよ? 足でも手でも顔でもなく胸!」
 そんなこと私にだって判っている。それがどうした。
「こんなもの男とさして変わりはせんだろう。お前は男の胸を触って変な気が起きるのか」
「なに言ってんの、霙姉女の子じゃん。つまり今俺が触ってんのは女の子のおっぱいでしょ?」
「女といっても私の胸は海晴姉や春風のものとは違う」
 そう、あの二人とは――
「大きさとかそんなんじゃないでしょ?」
「大きさは大事だぞ……?」
 うむ。
「ほとんど無いのと変わらん。それでも胸と言えるのか」
 それでも女の子と言うのか?
「いや、そうじゃん。だって……」
 言い淀む。
「霙姉の胸を触って俺、今すっごいドキドキしてるんだ。たぶんこの家に来てから一番」
 そう言った弟の顔は真っ赤に染まっていた。
「男の胸触ってドキドキなんかしないよ。するのは霙姉が女の子だからだって」
 初めてだろうか――こうして男に面と向かって言われたのは。
 海晴姉や春風には言われたことはあったが、男からは一度も無かったな。
「お前は私が女だと思っていたのか?」
 今まで父親や兄のような男性的な役割を演じてきた私を、
「当たり前じゃん。言ったでしょ、ドキドキしてるって」
 女として見ている――?
 今までずっとそんな風に扱われなかった私をか?
「私のどこが女なんだ? 性別がそうだ、なんて馬鹿なことは言うなよ」
「んと、匂い……とか、あと案外華奢なとことか、雰囲気も『姉さん』ってかんじ」
 嘘だろう?
「この家に来てから男みたいだなんて一度も思ったこと無い」
 そんなことは――
「だからこんな風に霙姉の胸触ったの信じられない」
 そんな――
「ねぇ霙姉……ってどうしたの?」
 もうこれ以上は、もう――
「部屋に……戻る」



 細波が立っているかのように心がざわつく。
 こんな事ありはしないのだと囁きが聞こえる。
 だが、アイツは騙したり嘘をつくようなやつか?
 違う。アイツはそんなようなやつじゃない。
 共にいる時間はまだ短くもそれは断言出来る。
 アイツの言葉に嘘などない。
 だからそれはつまり――


 廊下で春風とすれ違った。
「まだ起きているのか?」
「そういう霙ちゃんも」
 ……。
「なぁ、春風。春風から見て私はどう映る?」
 んー、そうでねぇと右手の人差し指を唇に当てて少し考えると春風はこう言った。
「霙ちゃんはとってもかわいい女の子です」
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