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2009
霙姉と長男のSSです。
虹裏設定(夜食部)が混じっている……というよりほぼそれ100%なのでご注意を。
スレでさらさらしたものと同じものです。
ただ、こちらは最後に一行追加しています。
虹裏設定(夜食部)が混じっている……というよりほぼそれ100%なのでご注意を。
スレでさらさらしたものと同じものです。
ただ、こちらは最後に一行追加しています。
「いやー、怒られた怒られた。なぁ、弟よ」
「なぁ、じゃないですよ霙姉さん。だから言ったじゃないですか」
夜食を求めキッチンへ潜入した私たちは待ち伏せをしていた春風と蛍の二人に見つかり、五分ほど小ご……説教を受けて追い返されてしまった。今は夜食部の部室――私の部屋だ――に戻る途中だ。
「今日辺りには春風さんが気付くって言ったのに」
そう言って弟は肩を落とした。
「そうは言うがな弟よ、姉にも行かねばならん時があるのだ」
「……腹の虫が鳴った時、ですか」
うむ、と肯くと弟は更に肩を落とした。
「それに腹を空かせているのは私だけではない。立夏や夕凪もそうだ」
立ち止まり、それにと弟の方を向く。
「お前も空かせていただろう。聞こえていたぞ」
はじめは一人でキッチンに潜入しようと立ち上がったのだが、その瞬間に弟の腹の虫が鳴ったことに気付き、こうしてお供に加えたのだ。
「夜食無くして夜食部は成立しない」
そう、だからキッチンへと潜入したのだ。
「というか霙姉、備蓄してた夜食はどうしたんですか? たくさんあったでしょう」
「うむ……そのはずだったのだが、夕立の二人とさくらが食べ尽くしたようなのだ」
「……イナゴですかあの三人」
弟が驚くのも無理はない。三人が食べた夜食というのは、夜食部が我々二人しかいなかった頃の五日分に相当する。それを一日――いや、一晩で食べてしまったのだから。
「それで危険を犯してまでキッチンに忍び込んだんですか」
「そうだ。夜食部が夜食部であるためには夜食が必要なのだ」
「別に休んだってよかったんじゃないですか?」
それもそうなのだが……、
「一度集まってしまった以上そういう訳にもいくまい」
弟はそんなもんですかね、と溜息。
「そうだ」
私は言い切る。
それにしても、と弟。
「春風さんめっちゃ怖かったですよ」
「意外だったか?」
「えぇ、びっくりしました」
弟――春風からすれば王子様か――の前ではあんな風に怒った事は無かったな。
「春風だって怒ることはあるさ」
コイツが自分ではなく私の側に居ればそれは――それに、元々春風は夜食部自体を快く思ってはいなかったからな。
「それにしちゃ霙姉、涼しい顔ですね。一番怒られてたのに」
「ふむ――」
蛍はともかく春風は怒っていなかったからな。あれは――嫉妬だ。弟を取られた――私にそのつもりは無いのだが――という嫉妬。
だからキッチンに忍び込んだことにはさほど怒りは憶えていなかったのだ。それ以上の負の感情。
それを弟本人にぶつける訳にはいかないから代わりにそれを私に――本当に好きなのだな、などと考えていると弟が、
「あぁ、そうか」
と、なにかひらめいたような顔をし、私を見た。
「怒られ慣れてるんですね」
――何故そう思ったかは聞かないでおこう。
「そうではない」
そう言うと弟はなんだかよく分からないといった顔をした。
説明――するわけにもいかんか。
「ずっと春風や蛍の姉をやっているからな、ちょっとやそっとの事では驚かなくなるものさ」
もっともらしい理由をデッチ上げてはぐらかす。
だがコイツはなるほどと納得した。ちょろいものだ。
「昔から――」
「ん?」
「ホタや春風さんって昔からあんな感じなんですか?」
昔――か。
「蛍はそうだな。だが春風は――」
「違うと?」
「あぁ。よく泣いて、あんな番人のような顔をするような子ではなかった」
「番人て……」
苦笑い。しかし反論は無い。
「変わったものだ」
あの頃とはまるで――。
「妹がたくさん出来て、『姉』になった」
変わってしまった。
「随分としっかりしたものだ」
「へぇ」
弟は興味深げに目を輝かせる。だからつい――幼い頃の思い出を語ってしまった。
いくつのころだったか――忘れてしまうほど昔の話だ。
その日は朝から天気が悪くてな。空を見上げればいつ降り出してもおかしくない色をしていた。
実際、時間の問題だったしな。夕方にはゴロゴロと鳴り始め、暗くなる頃には雨が降り出した。
案の定春風は怯え出した。私の服を掴み、雷の音がするたびにその小さな手に力を込めた。
家の中に居れば大丈夫だと言うのだが、一向に服を放そうとしない。
海晴姉は別の部屋でヒカル達を見ていたので、そちらに行けば海晴姉がなんとかしてくれるのではいないかと思い、春風を立たせようとしたのだが、これがテコでも動かない。
流石の私もほとほと困り果ててしまった。
「……ざっくり言っちゃうと今のさくらのような感じですか」
「本当にざっくり言ってしまうとそんなところだ。だっこしてやると泣き止むところは同じだな」
と、ここで春風達の目を盗んで盗み出したどら焼きを取り出す。
「うわっ、どこにしまってたんですかそんなもん」
フフフ、驚いたな。仕込んだ甲斐があったというものだ。
「――秘密だ」
しばらく反応を見ていて気付いたんだ、雷が落ちてくるかもしれないという恐怖ではなくではなく、音やビリビリと震える家や空気そのものが怖いのだと。
私は――雷を怖いと思った事は無かったからな。落ちてはこないと説明し、なだめるだけでは駄目だと気付かなかったんだ。
…………。
なんだか急に情けなくなった。こんなにも近くにいるというのに気付いてやれなかったのか。
本当に――情けない。姉として失格だと思ったくらいだ。
こんな単純な事に気付かないとはな。
だがな、春風はそんな私の手を握り、言ってくれたんだ。
「みぞれちゃんと居るから怖くありません」
とな。手を震わせながら力強く、だ。
春風は不安になっていた私の気持ちを察してくれた。私は春風の不安の正体に気付けなかったのに、だ。
今度は違う意味で情けなくなった。だから今自分に出来る事をした。
なんだと思う? 覆い被さるように全身で春風を抱きしめたんだ。震えごと包み込むように、な。
すると5分もしない内に震えが止まり、10分もするとくーくーと寝息を立て始めた。
「……そんなことがあったんですね」
「あぁ」
弟にこんな話をするのは初めてだったか。
「今もそうだが、あの頃の春風は可愛かったな。なんにでも怯え、すぐに私や海晴姉にしがみついて来た」
「へぇ」
「それで頭を撫でてやったり抱きしめてやるとそれだけで落ち着いた。今はもう――必要無いみたいだがな」
チラリと弟を見る。私の視線に気付き、頬を染める弟。
「随分とお前の事を気に入っているようで『姉』としては寂しい限りだ」
「春風さんは今でも霙姉の事見てるでしょ」
そうだろう。
「だが、私はもう春風の中心にはいない」
「え……」
なにを想像したのか、寂しそうな顔をしている。
「その場所には――」
すっと左手を伸ばし、弟の頬を撫でる。
「お前が居るからな」
そういうと弟は困ったような顔をする。
「そんな事無いですって」
なにを言うか。
「春風にとってお前は『王子様』だ、特別なんだ」
そう、同じ血を分けた家族でも。
「お前が一番なんだ」
だが、あまり調子には乗るなよ? と付け加えて頬に添えていた手を下ろす。
「春風の心の大部分を占めている。一番新しく来たオマエがな」
一番長く時を過したママや海晴姉よりや――この私よりも。そしてヒカル以下の妹達よりも――
これでも嫉妬しているんだぞ? 一つ違いの妹を奪われたのだから。
「だといいんですけど……どうにも自信無いですね。顔がいいわけでもないですし、特段強いというわけでも……ないですから」
今の間はヒカルの事でも思い出していたのだろうか。
「そう言えばそうだな。春風のやつ、オマエのどこを気に入ったのだろうか」
背が高いわけでもなく、成績が良いわけでもない。至って普通だ。それでも。
「家族で唯一の男だからなのかもしれん」
えっ、と驚く弟。
「オマエや私からすればそれだけの事でも、春風にとっては重要な事なのかもしれん。――いや、分からんがな」
たとえ理由がなんであれ春風がコイツの事を王子様と呼び、好いている事に変わりはない。
「兄で弟で王子様か――お前も大変だな」
首を横に振る弟。
「そうですよ。兄で弟で王子様です――あとフェルゼンも」
そうだったな、と肯き真璃の顔を思い浮かべる。
「さあ、部屋に帰ろう。立夏達が腹を空かせて待っている」
窓から差し込んだ月の光に照らされ浮かぶ弟の背中。
今はまだ頼りないが大きくなって私達家族を背負っていく背中。
私のたった一人の弟。
そして春風のたった一人の王子様。
――――そんなお前がとても憎い。
「なぁ、じゃないですよ霙姉さん。だから言ったじゃないですか」
夜食を求めキッチンへ潜入した私たちは待ち伏せをしていた春風と蛍の二人に見つかり、五分ほど小ご……説教を受けて追い返されてしまった。今は夜食部の部室――私の部屋だ――に戻る途中だ。
「今日辺りには春風さんが気付くって言ったのに」
そう言って弟は肩を落とした。
「そうは言うがな弟よ、姉にも行かねばならん時があるのだ」
「……腹の虫が鳴った時、ですか」
うむ、と肯くと弟は更に肩を落とした。
「それに腹を空かせているのは私だけではない。立夏や夕凪もそうだ」
立ち止まり、それにと弟の方を向く。
「お前も空かせていただろう。聞こえていたぞ」
はじめは一人でキッチンに潜入しようと立ち上がったのだが、その瞬間に弟の腹の虫が鳴ったことに気付き、こうしてお供に加えたのだ。
「夜食無くして夜食部は成立しない」
そう、だからキッチンへと潜入したのだ。
「というか霙姉、備蓄してた夜食はどうしたんですか? たくさんあったでしょう」
「うむ……そのはずだったのだが、夕立の二人とさくらが食べ尽くしたようなのだ」
「……イナゴですかあの三人」
弟が驚くのも無理はない。三人が食べた夜食というのは、夜食部が我々二人しかいなかった頃の五日分に相当する。それを一日――いや、一晩で食べてしまったのだから。
「それで危険を犯してまでキッチンに忍び込んだんですか」
「そうだ。夜食部が夜食部であるためには夜食が必要なのだ」
「別に休んだってよかったんじゃないですか?」
それもそうなのだが……、
「一度集まってしまった以上そういう訳にもいくまい」
弟はそんなもんですかね、と溜息。
「そうだ」
私は言い切る。
それにしても、と弟。
「春風さんめっちゃ怖かったですよ」
「意外だったか?」
「えぇ、びっくりしました」
弟――春風からすれば王子様か――の前ではあんな風に怒った事は無かったな。
「春風だって怒ることはあるさ」
コイツが自分ではなく私の側に居ればそれは――それに、元々春風は夜食部自体を快く思ってはいなかったからな。
「それにしちゃ霙姉、涼しい顔ですね。一番怒られてたのに」
「ふむ――」
蛍はともかく春風は怒っていなかったからな。あれは――嫉妬だ。弟を取られた――私にそのつもりは無いのだが――という嫉妬。
だからキッチンに忍び込んだことにはさほど怒りは憶えていなかったのだ。それ以上の負の感情。
それを弟本人にぶつける訳にはいかないから代わりにそれを私に――本当に好きなのだな、などと考えていると弟が、
「あぁ、そうか」
と、なにかひらめいたような顔をし、私を見た。
「怒られ慣れてるんですね」
――何故そう思ったかは聞かないでおこう。
「そうではない」
そう言うと弟はなんだかよく分からないといった顔をした。
説明――するわけにもいかんか。
「ずっと春風や蛍の姉をやっているからな、ちょっとやそっとの事では驚かなくなるものさ」
もっともらしい理由をデッチ上げてはぐらかす。
だがコイツはなるほどと納得した。ちょろいものだ。
「昔から――」
「ん?」
「ホタや春風さんって昔からあんな感じなんですか?」
昔――か。
「蛍はそうだな。だが春風は――」
「違うと?」
「あぁ。よく泣いて、あんな番人のような顔をするような子ではなかった」
「番人て……」
苦笑い。しかし反論は無い。
「変わったものだ」
あの頃とはまるで――。
「妹がたくさん出来て、『姉』になった」
変わってしまった。
「随分としっかりしたものだ」
「へぇ」
弟は興味深げに目を輝かせる。だからつい――幼い頃の思い出を語ってしまった。
いくつのころだったか――忘れてしまうほど昔の話だ。
その日は朝から天気が悪くてな。空を見上げればいつ降り出してもおかしくない色をしていた。
実際、時間の問題だったしな。夕方にはゴロゴロと鳴り始め、暗くなる頃には雨が降り出した。
案の定春風は怯え出した。私の服を掴み、雷の音がするたびにその小さな手に力を込めた。
家の中に居れば大丈夫だと言うのだが、一向に服を放そうとしない。
海晴姉は別の部屋でヒカル達を見ていたので、そちらに行けば海晴姉がなんとかしてくれるのではいないかと思い、春風を立たせようとしたのだが、これがテコでも動かない。
流石の私もほとほと困り果ててしまった。
「……ざっくり言っちゃうと今のさくらのような感じですか」
「本当にざっくり言ってしまうとそんなところだ。だっこしてやると泣き止むところは同じだな」
と、ここで春風達の目を盗んで盗み出したどら焼きを取り出す。
「うわっ、どこにしまってたんですかそんなもん」
フフフ、驚いたな。仕込んだ甲斐があったというものだ。
「――秘密だ」
しばらく反応を見ていて気付いたんだ、雷が落ちてくるかもしれないという恐怖ではなくではなく、音やビリビリと震える家や空気そのものが怖いのだと。
私は――雷を怖いと思った事は無かったからな。落ちてはこないと説明し、なだめるだけでは駄目だと気付かなかったんだ。
…………。
なんだか急に情けなくなった。こんなにも近くにいるというのに気付いてやれなかったのか。
本当に――情けない。姉として失格だと思ったくらいだ。
こんな単純な事に気付かないとはな。
だがな、春風はそんな私の手を握り、言ってくれたんだ。
「みぞれちゃんと居るから怖くありません」
とな。手を震わせながら力強く、だ。
春風は不安になっていた私の気持ちを察してくれた。私は春風の不安の正体に気付けなかったのに、だ。
今度は違う意味で情けなくなった。だから今自分に出来る事をした。
なんだと思う? 覆い被さるように全身で春風を抱きしめたんだ。震えごと包み込むように、な。
すると5分もしない内に震えが止まり、10分もするとくーくーと寝息を立て始めた。
「……そんなことがあったんですね」
「あぁ」
弟にこんな話をするのは初めてだったか。
「今もそうだが、あの頃の春風は可愛かったな。なんにでも怯え、すぐに私や海晴姉にしがみついて来た」
「へぇ」
「それで頭を撫でてやったり抱きしめてやるとそれだけで落ち着いた。今はもう――必要無いみたいだがな」
チラリと弟を見る。私の視線に気付き、頬を染める弟。
「随分とお前の事を気に入っているようで『姉』としては寂しい限りだ」
「春風さんは今でも霙姉の事見てるでしょ」
そうだろう。
「だが、私はもう春風の中心にはいない」
「え……」
なにを想像したのか、寂しそうな顔をしている。
「その場所には――」
すっと左手を伸ばし、弟の頬を撫でる。
「お前が居るからな」
そういうと弟は困ったような顔をする。
「そんな事無いですって」
なにを言うか。
「春風にとってお前は『王子様』だ、特別なんだ」
そう、同じ血を分けた家族でも。
「お前が一番なんだ」
だが、あまり調子には乗るなよ? と付け加えて頬に添えていた手を下ろす。
「春風の心の大部分を占めている。一番新しく来たオマエがな」
一番長く時を過したママや海晴姉よりや――この私よりも。そしてヒカル以下の妹達よりも――
これでも嫉妬しているんだぞ? 一つ違いの妹を奪われたのだから。
「だといいんですけど……どうにも自信無いですね。顔がいいわけでもないですし、特段強いというわけでも……ないですから」
今の間はヒカルの事でも思い出していたのだろうか。
「そう言えばそうだな。春風のやつ、オマエのどこを気に入ったのだろうか」
背が高いわけでもなく、成績が良いわけでもない。至って普通だ。それでも。
「家族で唯一の男だからなのかもしれん」
えっ、と驚く弟。
「オマエや私からすればそれだけの事でも、春風にとっては重要な事なのかもしれん。――いや、分からんがな」
たとえ理由がなんであれ春風がコイツの事を王子様と呼び、好いている事に変わりはない。
「兄で弟で王子様か――お前も大変だな」
首を横に振る弟。
「そうですよ。兄で弟で王子様です――あとフェルゼンも」
そうだったな、と肯き真璃の顔を思い浮かべる。
「さあ、部屋に帰ろう。立夏達が腹を空かせて待っている」
窓から差し込んだ月の光に照らされ浮かぶ弟の背中。
今はまだ頼りないが大きくなって私達家族を背負っていく背中。
私のたった一人の弟。
そして春風のたった一人の王子様。
――――そんなお前がとても憎い。
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