検索に引っかからないので名前変えました
2010
帰宅して着替えていると背後からカチャ、という音がした。振り返ると海晴姉がドアの隙間から首を覗かせていた。
「今日はずいぶん遅かったわね、霙ちゃん」
「あぁ、今日は――」
弟に連れられてぜんざいを食べに行っていた、と言うと海晴姉はにやりと笑った。
「へぇ、弟クンとねぇ……二人っきりで?」
「うむ」
「そういえばこの前も一緒にどこか出かけてなかったかしら」
「アイツがどこそこに新しい店が出来たから行ってみないか、と誘うので何度か」
ふうん、と海晴姉は笑って、
「なんだか姉弟じゃないみたいね」
と、おかしな事を言った。
「何を言うか。アイツと私はちゃんと血が繋がっているんだろう?」
「でも、お姉ちゃんと一緒に甘い物食べに行きたいなーって誘ってくる弟なんてそうそういないわよ?」
それはどういう……
「まるで恋してるみたい」
恋?
「アイツが、か? 別にアイツはそんな風になんか考えて――」
いるわけがない。私達は家族なのだから。姉と弟でしかないのだから。
そんな感情抱くはずがない。
「えー。さっきすれ違ったけど弟クンすっごい嬉しそうな顔してたわよ? 姉弟で出かけたってだけであんな顔はしないと思うけどなぁ」
「それはあの店のぜんざいが美味かったからだろう」
「そうかなぁ、それだけじゃないんじゃなかしら。弟クン、霙ちゃんが好きだからよ」
まさか。
アイツは……そんなはずは……。
「じゃなかったらあんな顔いないわよ。霙ちゃんのことが好きだから一緒に居たいのよ。美味しいお店を教えたくて誘ってるわけじゃないと思う。霙ちゃんだって甘い物が食べたいってだけ。ついて行ってるわけじゃないでしょう? それは弟クンと一緒に居たかったからじゃないかしら」
「そんな事は……」
「無い――って思っているだけで、気付いていないだけでそれは弟に対してのそれじゃなくて、男の子に抱く好意なのよ」
霙ちゃんニブいからちゃんと教えて上げないと一生気付かなかったかもね、と海晴姉はウィンクをしてみせた。
「あ、姉さん、生徒会の仕事もう終わったの?」
校門を抜けて帰ろうとしていると門柱の影から弟が現れた。
「なんだお前、そんなところで何をしてるんだ」
「やだなぁ、姉さんを待ってたんだよ」
「……。私なんかを待ってないでさっさと帰れ。そしてチビ達の相手をしてやれ」
全員お前が帰ってくるのを待っているんだぞ。
「昨日や一昨日はそうしたよ。だから今日はさ、霙姉に相手してほしいな」
「私がお前の、か」
「うん。駅の方に新しくたいやきの店が出来たらしくてさ、そこ行ってみたいなって」
「たいやき屋ぐらい別に一人でも行けるだろう」
私を待つ事なんて無かっただろうに。
「それが小倉やカスタード以外にも抹茶とかチョコとかいくつか種類あるみたいでさ、色々食べてみたいんだけど一人で何個も食べるわけにいかないじゃん?」
「あぁ、なるほど。半分ずつなら一つ分でも二種類食べられる、と」
「そういうこと。早く全種類制覇したいけど毎日食べるのは辛いからね」
「それに金も半分で済むしな」
うん、それが一番でかい、と言って弟は笑った。
「じゃ、行こうか姉さん」
と、私の手を引いて歩き出した。
だが私は、
「いや、今日は都合が悪いんだ」
嘘をついた。
「え……?」
「先約があってな。すまないが今日は一人で行ってくれ」
驚いて足の止まった弟の手を払い、追い抜く。
「帰ったら感想でも聞かせてくれ」
弟が『姉』を誘っているわけではないと気付いていても、一緒に行きたいと思ってしまった。
だから、余計に。一緒に行ってはならないのだ。
その気持ちに応えるようなことをしてしまったら、アイツはどう思うだろうか。
私の事を姉として見なくなってしまうのではないだろうか。
もし、そうなってしまったら私たちは姉と弟の関係ではなくなってしまう。
だからといって他人になれるわけでもない。家族は家族だ。
なれぬものになろうとし、持てぬ幸福を求めるよりも、
仲の良い姉弟であり続けるほうがまだ、幸せというものなのではないだろうか。
だから、
「捨ててしまえばいい」
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